雪原


早朝に降る雪は
濃密な結晶をばら撒く
湿り気に風が舞い
鋭利な先端が
傷口に刺さる

今朝が
昨晩よりも静謐なのは
空だけでなく
足跡と轍
言葉までもが白さに
鳴りを潜めているから

汚れた裾がやけに目に付く
剥がれた瘡蓋から
臓腑の色も隠し切れない

非難されるべき咎を抱き
いつか暴かれる嘘が
ひらひらとちらつく


(2013/1/15)







雪原に降る


隠して
壊して
それでも
無数に増えた破片が
余すところ無く突き刺さる

消し去ることはできないと
分かっているのだろうに
足掻くことが
答えになるはずも無いのに
降りしきる欠片に許しを思う

一人
耳を澄まし
夢に重なった衣擦れを聞く
一人
刻み込んだ茜空で
身を暖めた温もりを辿る

ぬかるんだ土は
やがて白く覆いつくされるだろう
疲弊した身体を道連れに


(2011/4/24)







道すがら


喧騒から逃げて
川縁を歩く
歩道のアスファルトは
踏みしめる
砂利の音など
聞こえるはずもなく
靴音ばかりを主張する

葉を落とした
木々の枝が
時折風に揺らされ
影を変え
こぼれる囁きと
白く吐かれた息とを
掻き混ぜる

手袋を忘れた指先
温もりを求めて
日にかざす
青との境
全身に通う血が
端にも届いていると
確かめられる

磨いて艶を出した
黒皮の靴の爪先が
光を跳ね返す

眩しくて
目を閉じる
咽び鳴く鳥の声が
すぐ近くで聞こえる


(2009/12/28)







白く雪は


羽根のように
緩やかに舞い落ちる
先導者のように
風の行く先を
なぞらえて
灰色の景色を
白く埋めて
ただ
白く
もう一度
描き直そうと
するかのように

吸い込んだ息に
喉が痛む
貼りついた息が
ただでさえ少ない言葉を
ことごとく呑み込ませる
吐いた息は
白い景色に
また
白色を塗り込める

掴んだフェンスから
溶けた雪が滑り落ちる
二人分の足跡
きびすを返した
片方の足跡
それもまた
白が
埋め尽くす


(2008/2/3)










すべてを吸い込んでも
なお白く
歪みを正しもせず
降り続けるのは
急いで覆ってしまいたい
偽善が散らばっているから

その横で
嘘は春にばれるのだと
囁きが耳を打つ

   地上に落とされた
   偽物の純白は
   ぬくむごとに
   吸い込んだものを
   溶かし出し
   薄汚く染まってゆく

   汚泥の中から
   誕生するものが
   嘘であると
   誇示するかのように

それでも
降り積もってゆく白さを
見ている以外に
何が出来るというのだろう


(2006/2/12)







変わろうとも


はけを滑らせ
霞ゆく雲は
流れた風の
跡を追い
浮かび上がっては
また
彼方に溶けてゆく

繰り返し
繰り返し
甕覗色の画布の中
生まれては
消えて

惜しみも
衒いもなく

ただ そこで
移ろうままに


(2006/1/22)







旅愁


遠く霞む山は白く筋を残し
繰り返す水田の畦道に人影はなく
時折 空に垂れた黒点のように
群れを為して飛ぶ鳥を見つける

鉄塔から分けられ
弱々しく立ち並ぶ柱
近付くほど霞んでゆく足下は
成せることの限界を突き付けて
帰れないと嘆く無意味さを
つらつらと思い出させる

仮初めの矜持さえ
持ち合わせない憂き身に
射し貫くような冷たさが
緩むことも知らず
間に何も介さず
触れる肌を紅く染める

風が凪いだ一瞬を選びながら
歩みを進めていては
到底 たどり着くことなど
叶わぬだろうに
焦りだけがからまわる


(2005/3/6)






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