藻掻く


部屋の中でくすぶり
剥がし切れない
熱にうかされ
渇きにあえぐ月が
闇をかき混ぜながら
枝先に突き刺さる

部屋の中
引き籠もり
淀みをぬぐう
風を待てども
鼻先の陽炎は
傷口を
押し広げてゆくばかり

昼間の太陽は
闇の口内に飲み込まれ
破れた皮膚は
ふさがらずに
少しずつ体液がにじむ

やがては溶ける
跡形もなく
消え去る
変わりない定め

だとしても


(2011/6/19)







郷愁


何処からか
祭りの
お囃子が聞こえる
覚えのない
拍子 唄
だとしても
過去が絡みつく

かすかに
きこえる笛の音が
耳から錯覚を
運ぶのか

ゆっくりととじた
まぶたの裏
闇夜に明るく
照らし出される
山車
浴衣や夜店
熱気で赤みをおびた頬
混在したにおい
音の見せた


長く留め置くには
あまりにも
記憶は薄らぎ
重ねるほどの
鮮やかさを
欲するばかりだ


(2008/9/23)










西日を透かして
揺れる枝先
水面に落ちた葉と
川下へ流れて

声が
水音を消してゆく
わだかまった言葉を
押しやるように
ありもしない
郷愁を誘うように

胸に開いた空洞は
多分 偽りだ
こんなにも
息が詰まるのだから

光 流れ
時を待たず
闇 湧き
途絶えた声に
せせらぎが
聴こえ始める


(2008/9/7)







錦鱗


群れを成し
一点を見定め
乱れぬ様は
予め組み込まれた
仕掛けのように

波紋がやがて
飲み込まれ
波間の一部となり
消えゆくように

石瀬に映る影が
揺れながら
あとを追う

水面を跳ねる光が
葉影をすり抜け
息づく緑の香に
混じり
風に乗る

囁きは聞こえない
水音と
葉の戦ぐ音だけが
なおも消えぬまま


(2007/6/3)







梔子


雪見窓の向こう
嵌め込まれた
松と鐘楼の先に
青く塗り込められた
空が見える

隔てた戸の隙間から
いくつも いくつも
こぼれ落ちるのは
砂利の擦れ合う音と
梔子の花の香りと

それは

押し黙る人々の
代弁者であり

いっそ
饒舌なほど
響き渡り
甘く漂う


(2006/12/9 四季之詩 出展作品)






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