風光る


散った花弁の
淡き白さは
新緑の先触れ
萌え立つ野山の
夢に酔う

そぼ降る雨を
昨日に置いて
糸の仕掛けに
揺れる雫

奔流の源
今まさに
始まりの時
大気が囁く
手ざわり


(2012/5/28)







雪柳


弓なりに垂れた枝
細かな針で覆われた
硬い芽が
凍て付く寒さに
堪えた赤から
柔らかな風に吹かれ
芽吹く緑を携え
やがて
真白く花開く

それは

ほとばしる光の流れ

咲き乱れる結晶

しなやかな鼓動


(2012/2/5)







巣立ち


やわらかく
時は過ぎる

吹き荒ぶ嵐の中
何度
枝先を折られたか
打ち据えられるごとに
しなやかさを増し
立ち上がる姿は
凛然として
時に
孤高を感じさせる

それでも
花の香りは
風に乗り
数多の傷を覆い隠しながら
首筋を通り抜けてゆく

ああ
なんて晴れやかな
日常

翻る裾と
高い笑い声が
光の隙間に
融けてゆく

憧れは広く
泡沫の憧憬を現と見せ
さらば
一時の夢よ
さらば
幼子の夢よ


(2011/3/6)







お待たせ


ハルニレの木陰に自転車を止めて
下草に腰を下ろす
硬い樹皮にもたれると
かさかさと割れて
日差しの匂いが薫る

枝先を揺らして飛び立った
ムクドリの声が高い
南からきた風が道を渡り
シロツメクサが揺れる

こんな日には
ため息が花に色をつける
上手くできなかった息つぎが
緑の息吹に変わる


(2010/5/23)







春が呼ぶ


人混みで
君を見かける偶然
咲き始めた桜を背に
上着の裾を翻して
十字路を横切る

さよならは
何時だって
出会いの始まりを導く
重なってゆく繋がりは
生きた証を
少しずつ記憶に刻んで
奇跡の確立を
増やしてゆくのだろう

そっと
息を吐く

ため息などではなく
吸い込んだ息吹を
身体に満たして
立ち止まった足を
一歩前に
踏み出す準備を整えて


(2010/4/18)







可惜夜


白く映える
桜並木が
一斉にざわめく

薄桃色の花びらは
揺れる枝先から
こぼれる様に散りゆき
水面で揺れ
くるくると
廻りながら
やがて寄り添い
緩やかに
下流へと運ばれる

川沿いの歩道
気配はまだ
冴え冴えしい空気の
名残をつれて
ゆっくりとした
歩みを促してくる

昼間の喧騒は
忘れてしまった
見透かすような
青空の代わりに
夜に包まり
揺れながら
天を仰ぐ


(2010/4/3)







落花の唄


軽やかに弾んで
光を散らしながら
風を受けて廻る

くるくる
くるくる

一度きりの
大きな旅路に
募る思いも重なり
膨らむばかりの期待に
背中を押され
その
一歩を踏み出すのも
また
選択肢の一つなのか

しなやかに揺れ
波のように誘い
やがて
高く差し出した
あの人の
手のひらへと
受け止められるのを
夢見て

まわる
まわる
くるくる
くるくると

偶然に委ねて


(2010/2/21)










風に流されて
落ちた日が
山の端に滲む
飛来した鳥の羽根に
しがみつき
僅かなぬくもりは
山へと堕ちる

眩しすぎる季節が
駆け足で追い立てるから
花たちは散り急ぎ
やがて
萌え立つ緑の底に沈む

そして
押し込まれた色彩は
深みを増し
あざやかさを繋ぎ
朽ちる時を見定めて
一斉に灯るのだ

無数に散らばる
無音の詠唱は
何処までも遠くへ
阻むもの無く
高みへと
彼方へと
受け継がれてゆく

鳥たちの声に綴られ
花たちの色に語られ
眠りゆくものの
頭上に
幾重にも


(2007/4/29)








旅立ち


去年の轍を
縋らずに
辿らずに
いたのは
この時を待っていたから

今年も
雪解け水に
蕗の薹

準備万端
あとは
口ずさむ唄を
決めるだけ


(2006/3/12)







卒業


まだ冷たい風を
首筋に感じながら
門をくぐる

通い慣れた道が
いつもより眩しくうつったし
空もいつもより高い気がした

交わす挨拶も
どことなく弾んでいて
見返す眼差しは
互いに微笑みが浮かぶ

移りかわる季節を
何度も見てきたけれど
こんなにも
色鮮やかな気配が
含まれていたなんて
気づかなかった

未来は
憂えるものなんかじゃないと
今なら 叫べる

見えなくても
信じる 今が
その先に繋がってゆくから


(2005/3/23)







息吹


穏やかなひと頃
もれる光が肌ににじむ
やわやわとした日脚
かじかんだ指先は
遠く隔たりの向こう側
音もなく留め置く

ゆらりとかすめて
つかめずさらわれ
梅の小枝をなぜた風
葉に先だちほのめく
薄紅の花
下生えのやわらかな緑
こぬれに伝う百千鳥の
さえずりに合わせ
揺らぐ影

大きく吸い込んだ
空の温もりに
そろそろと目を閉じる
春の模様が
まぶたの裏
たおやかに咲き誇る


(2004/3/12)






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