思い



宣告


いらないと
言い渡されてしまったのだから
好きなように生きるしかないだろう

誰の手も掴まない
誰の肩にも寄り掛からない

終焉までの道程は
既に立案済みで
多少の誤差やぶれの予測値も
組み込まれ済みだ

思案顔や
世辞にも
決まった答えを用意して
高潔に生きること選ぶ

無駄だと決めたものには
縋らずに
あてどない疑問符に
惑わされずに

立ち続ける力が
あるとわかっている

覚悟なんて必要ない
気づいてしまったことを
受け入れればいいだけの話だ


(2013/5/6)








定めた先を


おみくじの凶とか
占いのワーストとか
軽んじる君は

向かい風など
もろともせず

両足で立ち
見定めた方向に
確実に
向かっていく

君の強さは
有りたいと願った
希望なのだ

震える声も足も
隠し通して

いつだって
世界を鼻で笑いながら
道を造る


(2013/2/17)







立場


ひび割れ 不良品
危険物のゴミ箱へ

意志を曲げないその口は無駄
従わないその眼差しは不要

スタートラインは千差万別で
鼻で笑う立場か
それとも
僻んで地団太を踏む者か

なってみせようではないか
操る者に
下す者に


(2013/1/20)







境界線


夕暮れの防災放送は
警戒色の中
喧騒から飛び出し
反故にされた約束を
再び思い出させては
沈黙に逃げる

合わさった右手は
幻想だったと
あれほど
期待してはいけないと
言い聞かせていたのに
また
繋がりを絶たれては
取り残される

離れた右手は
ひらひらと振られて
大きな影に連れられ行く

ただ呆然と立ち竦む
繰り返しの
この光景が変わることを
望んでいるはずなのに

この震えが止む術を
取り違えない内に
何よりも先に
自分から越えてしまえれば


(2011/11/6)







生きる


いとも簡単に
踏み砕かれて
傷ついてゆく
笑えやしない
冗談なんかで
誤魔化しても
暴かれた真実にぶつかり
衝撃が隙間を侵食しながら
広がってゆくのを
止められないだろう

不安の種は
其処此処に転がっていて
点在した退屈の箱は
憂鬱で溢れ返って
歪んでしまうだろう

だからと言って
何故
強く生きられらない

想い描くものが
希望ではなく
絶望であるからこそ
決められる
意思があるのだと

どう生きるかは
自分しだいだと
生れ落ちてから
生きる以外の
選択肢など
必要無かったのだから

たとえその時が
刹那に満たない
ものなのだろうと
長寿を全うする
ものなのだろうと

混ぜっ返された
歓喜と悲哀が
やがて均されるのを
待つ意味は無いのだ


(2011/2/27)







日常


向かい合わせで
朝食を食べる今も
明日の約束にはならないのだと
ずらした視線の先で
そんなことを考えている

消えてしまう想いに
仕方がないねと言えるように
必ず最初にさよならを
持ってきてしまう

気持ちの治めかたが
わからない
一過性のものだと決め付けて
笑い飛ばすには
あと
何十年必要なの


(2011/1/30)







修正項目


上手く隠したつもりだったのに
見透かされていたと気付いたときの
戸惑いといったら
恥ずかしさで掘った穴にめり込むほどだ

浮かれてハイテンションな足取りで
酔い潰れる寸前のように
誰の言葉も受け付けないほど
馬鹿笑いを続ける

勢いに乗ってぐあーっと叫ぶ
熊だか虎だか
取りあえず
恥を掻き消す為の威嚇をしてみても
握り締めるこぶしのように
胸の奥はぎゅうっと縛られたまま

何時だって
僕らは恥を隠し通すのに一生懸命で
心模様を映し出す視線なんか
これっぽっちも合わせられない
一人で叫んで
一人で揺れて
一人でもがいてばかりだ


(2010/6/20)







どろぼう


うそつきは
どろぼうのはじまりだ

だから
ぼくはどろぼう


いつもわらっているよ
かたぐるまは
やさしいてのぬくもり
あしくびに
おおきなてのひら
ちからづよく
ささえるもの

ときどきなくよ
ちいさなこもりうたは
やわらかなしらべ
ねむるまえの
まどろみのときを
ひとりじゃないと
おしえてくれた

ぬすんだものは
ぼくのむねへ
うめこんで
ぎゅっとおしこむから

いつも
すこしだけいたい


(2010/2/28)







ここからはじめよう


止まらず走っていこうと
つないだ右手を
ぎゅっと握り締めて
痛いほど空に向かって
持ち上げた

暖かな日差しに
目を閉じれば
小さな声が聞こえる
閉じ込めてばかりじゃ
何時まで経っても
見えてこない終わりに
焦るばかりだから

探し物は見つかった
振り返って
いつもつかめなかった
未来を今度こそ見据えて
ここから再びはじめよう

そらさず
めいいっぱい
腕を広げて
つかめるだけ
こぼれ落ちたものは
蹴り上げて
頭に乗せる位の余裕で

欲張ろう
思い描いたものは
すり抜けていく為のものじゃない
この腕に抱ける
可能性を宿しているのだから


(2010/1/4)






さよならの数


何時でも
このさよならが
最後になると
覚悟はしていても
ひっくり返された
日常に
平静を装って
会いに行ける
自信はない

忘却が痛みを鈍らせても
忘却に罪を刻んでしまうから

君に会うとき
たぶん僕は
変な顔をしているのだろう

訝しげな君が
疑問をこらえているのが
何となく分かる

隠した予兆を
気取らせないように
今まで使わなかった遠慮を
惜しげもなく披露し
用意した言い訳の
陳腐さに
失笑しているのだから

君がいないこと

君がいること

一文字の差を
埋めようとしては
失敗しているのだから

あと何度
僕は君に
さよならを言えるのだろうか


(2009/11/28)








伝えたい


歩道を渡った
その先
公園の門をくぐり
短い芝生を
駆け出す

あれは
もみじでしょう
それから
どんぐり
ぼうしがついてるよ

冷たくなった風など
気にする様子もなく
弾むように笑って
手にした木の実を
誇らしげに
木漏れ日にかざす

わたしのてよりも
おおきいよ
ゆびさきは
ちゃいろいね

黄色のポプラを
摘んで回しながら
さくさくと
足音を歌にして
きらきらと
瞳に映るものを
変えてゆく

生まれるものの
息づかいを
朽ちるものの
輝きを
残らず見せたい

例えば

二人で
鼻をすすって

さむくなったね

って
手を握って

季節が変わるたび
伝えよう


(2009/11/3)







選択


何が見える

ノートから顔を上げる
さまよう視線
窓枠に止まる紋白蝶
空に映るもの

吊り革につかまる
揺れる肩越し
トンネルを抜けた電車
光が照らすもの

震える小さな声
こらえた嗚咽
まばたきに流れる涙
心を描くもの

うつむくとき
立ち止まるとき
振り返るとき
進むとき

見据えたその先

そこから

何が見える
何を見る


(2009/8/16)







帰り道


当番の仕事で
校舎を出るのが
遅くなった
メダカの水槽は
思ったよりも重くて
底砂と水草を戻すのに
時間がかかってしまった

職員室から聞こえる声に
聞き知ったものは
見当たらず
足早に昇降口を出る

西向きの硝子に
光が反射して
前からも後ろからも
太陽が迫ってくる

染められた肌は
布地よりも濃く
やがて溶けてしまうから

剥き出しの歩道橋は
二段抜かしで駆け上がり
息を止めて
空に近づくのも一瞬で
手摺りを補助代わりにして
飛び降りる

工場跡地の家の犬は
鎖が長く
吼えながら走り寄ってくる
日陰を選び
慎重に進む

ブロック塀を避けさせて
トタン屋根の家の枇杷の木は
深い葉が茂る
たわわに実ったものを
もぎとって
食んでみたことはない

横断歩道は
白線の上だけが許されている

路地裏の家は
暗い土間の様な部屋の先に
金魚の池が三つある
酸素ボンベからはいつも
泡が浮き上がっていたから
祭りには三倍の大きさだろう

背丈以上の
鉄の門を押し開ける

飛び石を無視して
砂利の音を高くして
玄関の扉を両手で開ける

崩れ落ち
膝頭を擦り
たたきに両手をついたところで
ほうっと息を吐き
上がった息を落ち着けて
確認する

指先も
腕も
無事のようだ


(2009/8/8)
Ps & Qs」参加作品







強欲


詰め込んだものが
次から次へと
零れ落ちていった
懐は狭く溢れ出て
腕は頼りなく
掻き抱こうとしても
すり抜けてゆくばかり

わずかに残った
ものでさえ
かすみ 色褪せ
こうではなかった
そうではなかったと

力のないことに
諦めの言葉を吐き
仕方のないことだと
ただ受け入れ

確かめることもせず
疑うこともせず

もう いいだろう

欲しいものは
欲しいのだと
言ってみても
手に入れたものに
価値を見失ったとしても
掻き抱いたものを
とどめておくことが
できなくとも

声高に叫ぶこの声に
罪を塗る人は
もう
いないのだから

手を伸ばして
無理矢理掴んで
壊してしまう前に


(2008/12/30)








帰り道


バス停から
右の大通りに向かって
歩き出すのが
いつもの帰り道

ステップを踏んで
降りたところで
金木犀が香る
目をつぶって
深呼吸をして

窮屈な靴のせいで
爪先が痛いけど
こすり過ぎて充血した目を
早く冷やそうとは思うけど

今日は遠回りをして
帰ろう

葉の密集した背の高い木
手の届きそうなところに
花はもうなくて
少し背伸びをしながら
橙色の小さな花を摘んで
巾着に押し込める

帰ったら
温いお風呂に入ろう
摘んだ花を
桶に浮かべてみるのもいい

いっぱい吸い込めば
甘い香りだけに満たされて
強張った頬が
緩めばいい


(2008/10/26)







境界


秒針の刻む音
消えゆくことを
拒んだとて
叶うはずもなく

小雨降る夜
左手首ごと握り込んだ
腕時計に
鼓動を覚えこませてみても
緩緩と
痛みは近づいて

押し付けた額
返事を請う視線を
逸らして
憎んだ偽りを
吐かせてしまえば
永遠が苛む

胸が焼け付く
足掻いても
ごまかしても
どうしようもなく

このまま
跡形もなく
追懐も許さず
望んだもの
すべて
流してしまうような
雨さえも
叶うことはない


(2008/8/31)








靴音


靴音が鳴る
下り坂を駆けながら
土塀にうずくまる
影を尻目に
湾を目指す

鳥は歌う
騒ぐ木々が
夢見る大海原の歌を
飛沫を上げて
帆に風をはらみ
駆けてゆく船の天辺を

飛び立つのだ
引きちぎった
枷を沈め
碇を巻き上げ
いまだ見ぬ
水平線の彼方へ

この地に
さよならの合図を
踏みしめた砂利の
低く重い音を蹴散らし
甲板で
高らかなワルツを


(2007/12/24)







Copyright © 風人 All rights reserved.

inserted by FC2 system