泡沫






願いは叶うものだと
小器用に立ち回る
僕に目もくれず
確実にステップを踏んで
君は夢を叶え
あっさり僕を置いて行った

それも
決定済みのことだったなどと
後から思い出して
微笑んで語り合う将来なんて
到底 受け入れられやしない

笑いたくないときには笑えないし
泣きたくないときにも泣いてしまう

無邪気な君から
卑しい言葉を吐かせたかったけど
自分以外の人生を
自由にできるなんて馬鹿な勘違い
気づいたときに
きみはもう彼方で
違う誰かの赤い糸を引いている

同じ鋳型から
繰り出されたように
ぴったりと合わさった僕らだったけど
それはばら撒かれた嘘の
真実に見せかけるためだけの
たったひとつだったのだろう


(2013/5/19)







邂逅


ジャングルジムの格子を見上げれば
限定された空
青い塗料が剥離した陳列窓
切り分けられた太陽を
一つずつ抜き取って
夕焼けから夜を築く

右窓に結ばれた小指の約束
翻る裾が目隠しになって
指先を離した後の
君の表情が日々変わっていった

自惚れに気づいてしまわないように
理屈など捏ねやしないで
さっさとその手を掴めばよかった

あの時だけは
淀みなく澄み渡った行き先が
見えていたのだから

天窓にこらえた嗚咽で縮こまる肩
地球に伏して押し潰したのは
用意された回答
羅針盤などとうに壊れてしまった今
何故
出会う必要があったのか


(2013/4/14)








プラットホーム


滑り込んだ車両に
開かれたドアの先
広告の青い空白い砂浜
その海の向こうに
広がった過去を見た

波打ち際の砂に
足を取られて
捲くった裾どころか
上着まで海に浸かった

君は笑った

つられて笑った
僕の揺れる前髪から
海水が滴り
目に沁みた

流木に座り寄り添い
夕日が星空にかわるまで
水平線を眺める約束は
果たされないまま

プラットホームが
何度も離れて
二度と君に並べない


(2013/1/26)







宛先あり


そっけない文字は
目の前の
君の話し方と
ぜんぜんつながらない

会いたい気持ちと
自分のプライドが
いつも衝突して
気のない返事を
送ってしまうから
何年経っても
別れ際に
さよなら以外の言葉を
送れない

下書きに保存された
「宛先なし」の文章

改札で君の背中を見送って
携帯電話を
ぱちんと開いて




ぱちんとたたむ


(2011/8/6)







秘して語らず


身を寄せて
瞬きに肩を揺らし
握り締めた手を
解き離す

降り注ぐ雪は
枝に触れて
髪に触れて
ひっそりと
色を塗り潰し
寂寞も充足も
閉じ込める

欲したのは
変えられぬ位置

ならば
抱きしめる距離も
望まない
伝える言葉に
囁きもいらない

いつか
淡い雪は桜に変わり
膨らんだ蕾が
定めて花開くとき
散りゆく花弁の
決意に従い
空を拒み
土に帰そう

隣に立ち
悠然と空嘯く為に
枷を嵌めた自身に
耐えながら


(2011/2/6)







いつか


高々と上げた腕が
痛くなるまで
右手を大きく振り続ける

きっと忘れてしまうから
最期の言葉に込めた願いも
涙に滲んだあなたの横顔も
何もかも
忘れてしまうのだから

痛みに刻んでも
振り返る想いに
同じものはないのだと
解っていても

強く踏みしめた両足も
まだ残っている
両肩のぬくもりも
さよならが広がって
いつか
寂しさを覆い尽くすとき
戻らない想いを知るんだ


(2011/1/23)







そのための言葉を


あれから
と言葉にするたび
何も進んではいないのだと思う

過去は今を慰めるだけの
道具になどならなくて
笑い話を持ち出して泣いてみようか
とか
何でもない振りで痛みを語ってみようか
とか

浅はかな言動で人との距離を試して
弱さを演じて可哀想だねって
言葉を貰って
また
そこにとどまるつもり

優しくないって知っていた
それでも
足りないものを継ぎ足しながら
青写真を共有していけるだけの
確信を欲しがった

明日を怖がる理由をどうにか作り上げて
可哀想だねって
冷たい手のひらで濡れた頬に触れて
また
ごまかすつもり

こんなことばかり

知らなかったでしょう
泣いてなんていないでしょう
必要なんてないでしょう
それでも
引き止めてしまう理由を
薄々は気づいているんでしょう

足りなかったのはいつでも言葉で
待ち望んでいるのは最後の言葉で
一人の明日が怖いなんて
誰が決めたのだろう

昨日が記憶を押し込めて過去を埋める
明日に繋がる道を造る
これから
きっとうまくやれる


(2010/12/26)







にじいろのいと


うろこぐもは
ぺらぺらとはがされて
やぎについているんです

すてきなセーターを
つくるよていですから

つむいだいとは
なにいろに
そめましょう

そらいろだったら
なめてもいいですよ

あまいゆびさきが
あかいろにそまって

ゆうぐれのそらに
かえってゆきますから


(2010/10/17)







イリマジル


夏の初め
曇り空の海に浸かり
上向きに浮かぶ視線は
隠れている
太陽を探すばかり

くるりと反転して
水面を押して
飛び立って行くであろう翼を
もぎ取る勇気もなくて
黒い染みを広げ
厚くなる雲に
期待を寄せる

波に揺れる額を
ときどき押して
沈めることくらいが
触れる唯一の方法で
つむられる瞳に
僕の姿が一瞬でも
映るのであれば
こんなにも怯える事など
なかっただろう

握り締めた手のひらで
ひどく爪先だけが冷たい


(2010/7/11)







春嵐


揺れる葉陰に
光落ち
頬で髪で
きらきらと揺れる

緩む風は
空いた胸を通り抜け
続くはずの安寧に
終わりを告げた

花吹雪に乱れた髪を
おさえながら
語る言葉は
鮮やかだった

とどめておくこと
ばかりで
気付きもしなかったけれど

いつまで
追ってしまうのか
通り抜けた
風の先に
君の姿なんか
ありもしないのに

柔らかなぬくもりに
縋るように


(2009/5/1)







向かい合わせで


言葉数が少ないのは
口に出す前に言葉の順番を
心の中で組み立てるから

急いでいるときにどもるのは
言いたい気持ちがあふれて
言葉がついてこないから

肯定の言葉を二度言うのは
根拠に自信がないのを見透かされ
笑い顔で否定されるから

上の空で聞き返すのは
君の言葉を噛み砕いて
裏の言葉を見つけてるから

そうだよ
もう
知っているんだ

ただ
さよならをどう受け止めようか
決めかねているんだ


(2009/2/22)








写真と脚立


あなたがいなくなって
何が変わったのかといえば

初めて置いた写真立てと
冷蔵庫脇の三段の脚立

わたしは
とても薄情だから
いつかは
あなたの顔を
忘れてしまうのだろうし

できないと
嘆く前に
とりあえず
視点を変えて
周りを見回すことにもした

喪失で開いた空洞は
いろいろなものが詰め込まれて
子どものころの
押入れみたいになっている

だから

わたしは時々
そこの隙間に入っては
ひざを抱えて
写真を抱いて
脚立のことを
考える


(2008/11/23)








さよならと


手を振るよ
君との別れに
歩き疲れたと
荷物を全部下ろし
追いかけてくる
足音ばかりを気にして
進もうとしない君に

手を振るよ

報われない事に
寂しさを
覚えたからじゃなく
二人して
進む道を
けなしたかったわけでなく

肩を組み
晴れわたる空の下
高く明るい太陽を
見上げたかった

手をつなぎ
雨音が響く車道の脇
水たまりを避けて
庇うように歩きたかった

いつでも
隣を歩く君を
見ていたかった

手を振るよ
君と過ごした時間に

立ち止まってしまった
君のために

励ましに
苛立つ君を
支えられなかった
僕は

さよならの言葉を
最後の贈り物として


(2008/7/12)







空の扉


仰ぎ見る
薄青の空に
飛行機雲が
切取線を入れて
扉の切符を作る

明日の天気予報は


開けた扉からは
墨がこぼれたような
黒色の雲が流れ出てて
空を覆いつくすから

大粒の雨が
乾いた地面を叩き
黒く線を引き
長方形の水溜まりが
浮かんでくるよ

明日のわたしは
喪服の裾を
ふくらはぎに絡めながら
黒縁の額に収められた
あなたの顔を見るだろう

濡れた前髪を分けながら
煙突から揺れ出る
煙を見て
空の扉を開けたのは
あなただったのだと
思うだろう


(2008/1/13)







期限


目を閉じて願うものは
まぶたの裏側で
こぼれ去ってしまうから
君に触れて
言葉にして
後悔と一緒だとしても
確かに刻んでおきたいんだ

さざ波のように
押し寄せる気持ちの前で

変わってしまうことや
無くしてしまうことを
ひどく 恐れ
気付かぬままに騙して
捨て去ってしまおうと
ひどく 足掻いた

抱えきれないほど
大きくふくらみ
内側からから
侵蝕していく速度に
到底
抗えるはずもなく

ありのままに
生きるなんてことが
これほど
困難なことだったなんて

目を閉じて願うものに
確かなことなんて
一つもないのだから
君にくちづけて
名前を呼んで
約束された別れだとしても
この手を握りしめていたいんだ


(2007/8/18)






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