混沌



感染


視覚にとらえた瞬間から
消滅の行き先を計り始めるのは
悪い癖だ

湧いてくる言葉など
片手で補えるくらいで
選択の余地などなく
穿たれた時間の中に
隙間なく詰まっているのは
ため息だけだけれど
うっかり吐くことはできない

なぜなら
同時に
腹の中では
閉じ込められた腸内で
魚がうごめいているから
せぐり上げてくる体液
のことも気にしなくては
ならないからだ

澱は溜まる
いずれ浸蝕して
境界が曖昧になるまで
閉じ込めておくだろうが

消滅の過程を夢想するなら
煽られた綻びから
真実が膿んだ塊となって
切開した傷口から
飛び散って
あなたの粘膜に
感染してしまえばいいのに
とも思う


(2014/5/18)







水深


持ち上げる二本足の歩幅は
厳しく取り決められているから
曖昧に出された一歩は
傘の骨に弾き返され
土砂降りの中
天地までもが飲み込まれる

水圧が
均衡を保つ唯一

水の匂いが充満する校庭の隅
もがいているのは
日の出から数えて4人目だと
傍観者はつぶやく

飛び跳ね
逃げ出したとしも
校門を乗り越えて
横断歩道の白線上で
行く当てがないことに気づき
彷徨う羽目になっている

校舎の中の生き物は
回遊することで
忘却という名の足止めを食う
視線もつま先も
示された水流に絡め取られ
受け入れてしまったら
真っ直ぐ深く沈んでゆくだけだ


(2013/6/30)







空き箱


探している影は
誰のものだったのか
本来の目的は
とうに見失ってしまった

にもかかわらず
目をつむったまま
輪郭をなぞりながら
邂逅に束縛され
慣性に巻き込まれ
環状線から出られない

ねぇ 僕は
誰を探しているの
空っぽなのに
通る風もなく
慢性化した息苦しさで
判断もあやふやなまま

膝を抱えて
お仕舞だと
告げる言葉を待っている

空白を満たすものが
手持ちに無いのだから
片っ端から
潰していって
残ったものが正答なのだと
力任せにねじ込んでも

君だと気づく
自信がないから


(2013/6/9)








終幕の合図


問いの正解を
求めてしまったら
既に
エンディング曲は
流れ始めているのさ

エンドロールに書かれている
製作者・監督・小道具係
人生で接触した者の中に
愛した人の名のみ
空欄で
綴られることになっても

得意げに語った
人生の過程ほど
何故こんなにも
可笑しなものなのか

絶望も栄光も
これ以上ないと
立ち止まっている姿は
噴飯ものだ
窪みに足を取られた
喜劇役者を
笑わずになど
いられるものか

世界の始まりを目にして
自力解決の機会を放棄して
縋りつくことを
卑しさとみることで
己の権利は
放棄されたのだ


(2013/5/12)







それが全てだと言うのならば


生きている意味がないねと
談笑の途中で視界に入る
テレビ画面が脳裏に刻まれる

剥ぎ取られた肉片の方に
本能が混ざっていたからなのか
継ぎ接ぎだらけの身体からは
何をしても
愛が臭わないんだ

腹の中心はこんなにも
熱を帯びているのに
偽物だと
駅のポスターの嘲りに
胃が痛む始末

与えられたものを敷き詰めていっても
ただ一つが嵌らない

化石を掘り出す作業のように
繊細な手付きで心を箒で掃いても
もともと無いものを
掘り出すことなんてできやしない

テレビもポスターも
今更何を莫迦げたことを と
したり顔に言う
それじゃあ
何の為に生きているのだと
何の為に生まれてきたのだと

生きている意味がないねと


(2013/4/7)







俗世


ぎゅうぎゅうに
敷き詰められた
足跡の先には
ちぐはぐな踵が
隙間なく
並べられている
のに

衣擦れの音一つさえ
共有するものは無く

足音を忍ばせる者
駆け出す者
跳躍する者
蹲る者

雑然とした
背中ばかりが
群れを成し

声など聞こえない
返事はおろか
囁く者さえも
居やしないのだ


(2013/3/17)







計略


追想した出会いに
運命などという
浅薄な名前は付かない

海岸の砂粒一つでさえ
手のひらの上のそれは
取捨選択された
唯一無二

君に捧げる
些細な罠を
幾重にも施した
供物

針の先ほどの嘘は
傷口に群がり
爛れた表皮に
絡まる糸屑は
黒く染まってゆく


(2013/2/11)







不眠症


昼間吐き出した言葉が
口腔にわだかまって
何時もよりも
唇が重たい夜は
眠れない

まばたきが呼び水のように
なっているようで
目を閉じるたびに
一粒ずつ言葉がこぼれて

ぱたり
ころんと転がって
部屋の隅に集まってゆく

それは
咽を圧迫する程の容積が
空っぽになるまで
続くと推測されるので
押入れの輪郭が
徐々にぼやけてゆくのは
止むを得ない

東の空が白み始める頃には
高さ五糎ほどの
人型に敷き詰められて
それはそれは
耳の傍で姦しく
眉間の皺にまで
入り込むという始末だ

そんな日は
仕方ない

ため息と共に
起き上がれば
髪から
耳から
肩から
腕から
ばらばらとこぼれるので

引き戸をあけて
布団と一緒に
押し込んで
昨日の続きを始めるしかない


(2012/12/1)







残存


笑みは
物の具

口許の歪みから
ちらりと見える
犬歯は
薄い皮膚を
難なく破り
引き千切る

問いは
紡ぐ答えを待ち
挑発し嘲り
挫けろと
姦しい

ならば

自然の掟によって
現状を織り成す


(2012/11/4)







振動


空気の振るえに
意味なんて無い

欲しい言葉しか
聞こえないし
探している物しか
見つからないと

誰かが言ってた

鎮魂の歌が
脆弱に歌われないのと
同じように

だから
ぴりぴりとした
皮膚感は
まやかしなのだ


(2012/6/17)







繁殖


羽ばたき
さえずり
くちばしなど
もげてしまえ

宣告は
傍観者のむなしさ
愛らしくあれば
賢くあればと
こざかしい立ち回りを
見知った上の

紡ぐもの
断ち切るもの
まどろみ

いらえ


(2012/4/14)







人型


紡いだ言葉が
身体となって
あなたがわたしを
生かすのです

ハジメマシテが瞳を作り
アイタカッタと腕を作る

スキダヨと唇を作り
アイシテルと指先を作った

ダメダッタと脚を作り
サヨナラと心を作った


(2012/2/18)







愚か


くだらないと
一蹴してしまえれば
後ろを振り向き
後悔を引きずりながらでも
同じ過ちを
繰り返さずに
いられただろうに

一瞬の保身が
行末を決める
忘却は許されず
痛みは永遠となって

かすかに付いた錆が
徐々に広がってゆくのを
止められずに
見送る日々は

代償だ

切り落とした機会に
縛られる
言葉が
行動が
他の意味を伴って
針のような鋭さで
何度も突き刺さる


(2011/9/4)







制約


衝動が正しさを挫く

嵐で抉り
折れた枝が快晴に
痛ましく映るのは
過ぎ去る時を
待ち構えていたから

付け込む狡さを
持ち得たなら
目覚めに痛みなど
覚える筈も無く

矜持も無く
許しを請い
跪き
舌を出し
罪の数を競うのだ


(2011/2/20)








アリス


ぬかるんだ湿地に
足を囚われ
晩鐘の音に
臓腑が匂う

小刻みに揺れる
震えが止まない
挿げ替えた頭部が
支えきれなくて
徐徐にずれて崩れてゆく

こんなことなら
女王が刎ねた首から
安易に選ぶんじゃなかった

稀に見る愚か者だと
卵の嘲笑が聞こえる

兎の残した
シルクハットは誰が被る


(2010/12/12)







ぷつんと


ぽつり ぽつりと
言葉が
雫が

ぽつり ぽつりと
記憶が
音色が

つまずく前に
ふたこと目を思い出し
重なった輪染みが
皮膚を締め付け
千切れてゆくのは
小指の約束

ぽつり ぷつんと


(2010/11/23)







玩具


ついた鞠は弾けた
放物線は描かず
破裂音と
だらしのない
伸びきった布を残し
役目を終えた

ぐらつく膝を
重ねた裾で固める

詰め込む事に飽和した
僕の頭は
器の小ささを
見事に
僕の規定の範囲内で許し
申し合わせたように
境界を見誤ったのだ

過大な動作は
余剰分を撒き散らす
点在する欠片は
歪んだものばかりだ


(2010/10/9)







鉤素


雨の日は海の匂いが充満する
プラットホームの魚群は
尾びれを叩きながら
われ先に海溝へと
滑り込んでゆく

突き当たって剥がれた円鱗
吐き出される空気の振動
視界は2.5インチを最大に
酸欠状態にも危機を感じず
魚眼の濁りと共に大半が
液晶の妄執にとらわれている

発車のベルが着信音と重なる
飲み込んだ釣り針に引かれながら
改札を後にする


(2010/7/18)







蒼穹の死角


曇天の空は
押し込めた言葉を飲み込み
深く胸の底へ積もらせてゆく

厚くなった層は
わだかまりの中
時々疼き
視界の端で濁りながら
悪意を誇示している

愛しい言葉も
素直な言葉も
押さえつけられて
憎しみと僻みに
すり替わって
浄化できぬまま
混沌とした文字の中で
燻ぶり続ける

飽和した歪が
崩壊へと向かい
やがて
身体までも引き裂き
内から外へ
外から宙へと
器をひしゃげて
溢れ出してゆくまで


(2010/5/5)








道程


こめかみを支えた両手
閉じたまぶたが
痙攣するほど
頭痛がひどい

耳鳴りが昨日の失態を
永遠と再生させる
後戻りさえ
滑稽に思えるほど
取り返しのつかない
大きな間違いが
脳の奥深く
争いを繰り広げる

奇跡は予知された偶然
不運を除いた
きたるべき未来

そんなはずではなかった
などと
用意されたは台詞は
沈黙へと変わる


(2010/4/30)







目覚め


緩やかな光から
一瞬にして鋭い色をのせ
研ぎ澄まされた
身体に
歓声が
弾ける

向こう側は
光の渦だ
原石は七色に輝き
風の流れと
呼応する
波の飛沫を受け
秘めた力は
予定された
奇跡になる

端境に立つことは
焦慮でしかない

躍動は痛みを伴う
同調する収縮が
退化する心と
遠い時間の隔たりを
容赦なく刺し貫いてゆく

なれない己に嫉妬し
凝り固まった四肢を
動かそうともせず
漫然と過ごすことを
受け入れてしまった罰だ

眩むような光の中は
惹きつけられるほど
悪夢でしかない


(2010/2/13)








静寂の帳


やわらかくひざを曲げ
つま先を
ゆっくりとおろす

アスファルトに
靴音を飲み込ませるように
闇に溶け込む
静寂を乱さぬように

吐息ほども
風の囁きが
感じられない夜は
聞こえない星の
瞬きのかわりが
胸の奥
染みを残してゆくけれど

後戻りの言い訳を考え
掌で顔を覆って
薄く笑えば
肩の震え程度でも
深く闇に
はまってしまう

見えない糸で
釣り下げられた
人形のように
意思は問われず
ただ
掻き乱すことなく
促されるまま

募るものを
吐き出そうものなら
淀んだ大気の中
宵闇も相俟って
器の中は
耳の奥に
入り込んだ静寂だけに
満たされて
くぐもった嘲笑が
絡み付く


(2009/11/2)







うたかたの碑


運命は呪うものだ

寸分違わず
身に沁みる

呪詛の言葉は
吐き出さなくては
濁ってしまう

君に触れた
掌や唇
ぬくもりを求めても
冷えた皮膚は
再生を嫌がる

記憶の隅に向かって
壊死していくことを
拒むことなど
できないと
時間が現を
刻んでゆく

呪詛の言葉は
届かなくては
意味が無い

心も身体も
崩れ落ち
風にさらされて
あたりまえのように
望んだかのように
還ってゆくのを
止められないのだから

許しは請わない
花も添えない
我が儘に
何もかもが
無意味だとしても

いつか
獣のように
咆哮の理由さえも
わからなくなるまで


(2009/9/22)







どこまで


なめらかに蛇行して
空白を羽音で埋めながら
晴れた日を行く

耳鳴りは一昨日笑った
あごの関節に
風が通るからだけど
両手で塞いでしまうと
ありきたりな海の音に
替わってしまうから
うつむかず
大きく腕を振って
行進して行く

靴紐が
左足ばかりほどけるのは
偶然じゃなかった
履きつぶして
薄汚れたと思った
ちょうちょ結びは
鎌首をもたげ
赤い舌を出して
進む方向とは反対に
ねずみを追いかけて
行ってしまったから
右足に頼りながら
つまづかないように
アスファルトを
踏みしめて行く

歩く道が
草むらでない事を
こんなに悔やんだことは無い


(2009/8/8)
Ps & Qs」参加作品







滲みる、傾く、溺れる


冷えた髪にふれて
ぬれた頬をぬぐって
まぶたを押さえて

おやすみ
と言って欲しい

目覚ましなんか
掛けずに
握った手を
離さないで欲しい

だけれど
たぶん
いつでも
君は

ベッドサイドから
半歩下がって
四つ角を眺めるんだろう

滲みる
   何時の間にか
傾く
   少しずつ
溺れる
   渇く

囁きに
永遠を聞かせて
枷となって堕ちてきて


(2008/9/14)







運針


ちくちくちく

綻びを埋める様に
波の上肌に
針を滑らせ
海に帰れぬ様に
白い飛沫も
縫い合わせて
静かな慟哭と共に
覆ってしまえばよかった

両手が震えて
当たり前のことが
思う様に行かない
素足に感じる砂は
打ち寄せる度に
攫って行こうと
するけれど
我武者羅に訴えた
新月の晩には
受け入れて
くれなかったから

誰も彼もが
指先の世界しか
見ていないんだ

ちくちくちく

指貫は
金物にしておいた
皮がふやけて
使い物にならないように
秒読みは
余りにも長くて
飽きてしまうよ
痛みの理由を
忘れてしまうのが
とても怖いよ

とても

怖いよ


(2008/1/12)










追い掛けられているのは
闇の方よ

と あなたは言った

夜が逃げて
逃げられず
朝が
覆い被さってくるのだと

振り向かない
夕日の隙間に
そっと
滑り込んでは
僅かな
休息を得ているのだと

掴む度に
さらけ出し
居場所を奪いながら
それでも
追い求め

夜の果てに見た
暁が燃える
闇を焦がし
滅ぼそうとも
手を伸ばし
焦がれ続ける


(2007/4/28)
オンライン詩コンテスト「詩志-sisi-」
参加作品
A指定詩
「夜のはてにみた 暁がもえる」







品種


めだまやきよりも
おおきいの


あなたは
首を傾げながら
尋ねるから

うさぎは
卵からは
産まれないのよ


わたしは
手に取った雪を
固めながら
呟いた

どのくらいの
おおきさなの


あなたは
スコップで
やっと見つけた
土を掘り起こしながら
聞くから

もっと掘らないと
埋められないわ


わたしは
包まれた
紙の大きさを見て
答えた


(2007/1/7)






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