斜陽


赤く変わる季節
夕焼け色が飾る
燃える木々の匂い
熟れた果実の柔さ

躍動が朽ちる前
緑青が錆付くことは
愚者の戯言だと
無知を恥よと耳打つ
それは
決まって黄昏時

順を追って進む
初めてゆえの稚拙さ
慣れゆえの退屈さ
さすれば
指切りは滑稽だと
飛び立つ鳥は笑う
潜る蟲は苛立つ

感情が風光に溶ける
纏う色彩は冷たく
残照が頬に沁みる
それは
滅する前の
暖かな揺らぎ


(2011/10/10)







柘榴


噛み砕いた果実が
甘く漂う

無理矢理裂き
汚れた指先
塞いだ傷口が開く

痛みと芳香が
滴る果汁とともに
絡まり
眩暈を呼ぶ


(2009/11/14)








立待月


棚引く雲が
鐘の音とともに
宵闇に溶け
片流れのひさしの影に
桔梗一輪
慕うは天に
焦がれるは月に
裂けた花弁
やがては朽ちて
晒す姿が見窄らしくとも
募る想いは重なりゆく

門扉に続く石畳
響く音は
添え輿の歩みに似て
ともすれば
現を遮り
幻を引き入れる
朧に霞むは
家並みの佇まい
邯鄲の鳴き声
できることなら
逃れるために
踵を返す

漆喰の蔓草
水路の淀み
隠した姿を
浮かび上がらせ
重く傾く月は
溜め込んだ虚言を
吐き出して
やがては
泥濘に落ちるのだろう


(2009/9/27)











木々の枝が撓り
大きく傾ぐ
草の根が千切れそうに
激しく揺り動く

夕映え
薄い雲は赤く染まり
急ぎ足で流れて
山の端に飲み込まれ

打ち付けるように
風は
頬を通り過ぎ
髪を乱して

まぶたを
持ち上げるのさえ
困難な野中で
忘れ水を見つけた

見上げれば
静かに瞬き始める


(2008/10/18)







十六夜  


障子戸の裏側から
透かして見える
月のように
朧気な輪郭が
気付けば正面に
瓦屋根の先
萩の紅紫の
すぐ後ろ

舞う蝶を模して
伝えるのは
風のいわれか
しじまの愁いか
舞台の刻限は
間もなく
訪れる

(2007/10/27)







めぐりゆく


いつの間にか
和らいだ青色に
滑るように重ねられた
白色が
ゆっくりと
南へ流れてゆく

ああ やはり

とどまることは
許されずに

見上げても
見下ろしても
吹き抜ける風が
背中を押すけれど

谷間に沈む陽を
鳴いていた頃と
同じ姿で
あと何度見送れば
土に還れるのか

狂い無く
朽ちてゆく形が
狂い鳴く
季節を待つ


(2006/10/8)







追捕


鮮やかな赤の乱舞が
乾いた瞳の奥を痛める
いつの間にか
風は晒した肌を
切るようになった

焦がれたものを
得た代わりに
その身の一部を差し出せと

頑なにしがみつき
別離を拒むことにも
容赦なく
剥ぎ取り奪うように
吹き抜ける

そして
季節は徐々に色を失う


(2005/11/20)






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